インバウンドとは? その意味や需要について
- 2015/12/16
- コラム
※更新情報:2017年年間統計値を反映しました
2013年に訪日外国人旅行者数が1,000万人を突破したあたりから「インバウンド」「インバウンド需要」という言葉が頻繁にメディアに露出されるようになりました。お昼のワイドショーでも頻繁に耳にしますし、ニュース番組で特番を組まれることも珍しくありません。この記事では、初めてインバウンドについて調べている人から、日々接しているけどちゃんと意味を調べたことが無い人まで、幅広くインバウンド市場やインバウンド需要の現状を理解してもらう為の「まとめ」を記載しました。統計データは年間統計値としては最新版の2016年分を反映しております。是非頭の整理にご利用ください。
Contents
「インバウンド」の言葉の意味とは?
そもそもインバウンドの言葉の意味とはなんなのでしょうか。インバウンドは「INBOUND」と綴る英単語です。辞書によると、「入ってくる、到着する 」という意味の形容詞です。「IN」というのは「中」という意味があるのはご存じの通りですよね。そして「BOUND」は「~行きの、~に向かう」という意味です。それらが一つになって「インバウンド」という語彙になり、「中に向かう=中に入ってくる」という意味をもっています。
観光業界でのインバウンドの意味とは?
この「中に入ってくる」という意味のインバウンドという単語は、旅行業界においてはインバウンドツーリズム、として使われ、「国内に入ってくる旅行」という意味で使われます。つまり日本に入ってくる旅行、「訪日外国人旅行」のことをインバウンドと略して呼んでいるんですね。この市場のことを日常業務においては、インバウンド市場、と呼ぶ人もいれば、訪日外国人旅行市場、訪日外客市場、訪日外国人観光客市場、などと呼ばれる方もいます。ここ数年でインバウンドという単語の認知度が飛躍的にあがりましたので、インバウンド、インバウンド市場、インバウンド消費、などという呼ばれ方が一般的になりましたが、意味としては皆さん同じことをさしていると思います。
※尚、余談ですが、観光業以外の業界でも「インバウンド」という言葉が旬な業界があります。マーケティング業界です。マーケティング業界での「インバウンド」はインバウンドマーケティングと呼ばれており、本質的な言葉そのものの意味は同じく「中に入ってくる」(顧客の方からやってくる)、となります。外国人観光客市場におけるマーケティング、としてこの言葉を使う方や企業もいらっしゃいますが、マーケティング業界での使われ方は違ってきます。詳しく知りたい方はグーグルなどで「インバウンドマーケティングとは」で検索してみてください。更に、コールセンター業界においてもインバウンド(コール)(お客様からのお問い合わせ)という言葉が頻出しますね。このように業界によってその意味が変わってきますので、外国人観光客市場でSEOをしっかりと対策される方はこのあたりの違いを意識して取り組まれる必要があります。
インバウンドとアウトバウンドの違いとは?
インバウンドの記事等を読んでいる際に「アウトバウンド」という言葉を聞いたことがある人もいるかもしれません。ここまでの説明をご理解頂けれいれば想像がつくかもしれませんが、この「アウトバウンド」とはインバウンドの逆の意味で、「外に出ていく」ということになります。つまりアウトバウンドツーリズムとは、日本から外に出ていく、ということになり、「日本人による海外旅行」のことをさします。 インバウンドの統計を見る際には、よくアウトバウンドとの比較が出てきます。尚、2015年には実に45年ぶりに「インバウンドがアウトバウンドを逆転した」として大いに話題となりました。インバウンドナビでも記事にしていますのでよろしければお読みください。
抑えておきたいデータは?
インバウンドの定義や意味を理解してもらったところで、最低限頭にいれておきたいインバウンド関連の統計値を少しだけご紹介します。インバウンドに日ごろ関わっていない方も、社内や取引先との会話のためのビジネス雑学として是非抑えておいてください!
とりあえず抑えておきたいデータ | |
インバウンド入国者数 | 約2,379万1千人 (2017年) ※過去最高 |
訪日国TOP5 | 中国、韓国、台湾、香港、アメリカ (2017年) |
推計インバウンド消費額 | 約4兆4,162億円 (2017年) ※過去最高 |
推計1人あたり消費額 | 約15万3,921円 (2017年) |
日本のインバウンド世界ランキング | 12位 (2015年) ※アジアで3位 過去最高 |
日本政府目標 | 2020年迄に訪日外客数4,000万人、市場規模8兆円 2030年迄に訪日外客数6,000万人、市場規模15兆円 |
出展:JNTO(入国者数)、観光庁(消費額)、入国ランキング(世界観光機関)
これらを見るだけでも、いかにインバウンド市場が盛り上がっているかがよくわかりますね!しかし、日本への外国人観光客数が世界ランキングで16位というのに驚いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。これでも、2015年の22位からは着実にランクアップしております。今後もどんどん上位国に割り込んでいくことが期待されています。
特に影響をうけそうな業界は?インバウンド銘柄テーマ株とは??
これだけ盛り上がっているインバウンドですが、「私の業界には関係ないよ」と思っている方も多いかもしれません。しかし、このインバウンドの波は想像以上に色々な業界に影響を与えうるのです。以下に列挙してみます。
インバウンドの恩恵をうけそうな業界 | |
小売 | 百貨店、家電量販店、コンビニ、ディスカウントショップ、土産物店、アウトレット、商店街など |
飲食 | レストラン、居酒屋、カフェなど |
宿泊 | 旅館、ホテル、ゲストハウス、カプセルホテル、民泊など |
レジャー | テーマパーク、ゲームセンター、動物園、博物館、パチンコなど |
交通 | 航空、鉄道、バス、タクシー、船舶など |
メーカー | 飲食メーカー、化粧品メーカーなど |
その他 | 不動産など |
いかがでしょうか?いわゆる、消費者向け業界の大部分が関係してきます。これらの業界においては、既にインバウンド対策が進んでいる企業もあれば、遅れている企業もあり、対応が分かれているところです。インバウンドによる売上(免税品売上高で判断されます)が売上全体にしめる割合もまちまちですが、人気エリアの百貨店などでは免税品売上高が20%を超える店舗もあります。また、外国人に人気のエリアにおいては、宿泊施設における外国人客利用率が50%を超えている地域もあります。まだまだゴールデンルート(東京~大阪間)が盛り上がりのメインエリアではありますが、今後は地方への波及も期待されているのも事実です。
尚、2013年末頃から株式市場においても上記したような業界は「インバウンド銘柄」と扱われ、他の業界や銘柄と比べても注目度が高いようです(いわゆるテーマ株)。投資家にとっても見過ごせないテーマとなっており、実際に各企業の決算説明では「インバウンド」の文字が躍動しております。
何故「いま」盛り上がっているのか?
次に、インバウンド、インバウンド需要が盛り上がっている背景についてみてみましょう。2013年あたりから飛躍的に伸びている理由は色々な要因が絡み合っています。経済的、地理的、政策的、その他要因などです。以下に箇条書きにしてみます。
インバウンド盛り上がりの主要な背景 | |
為替 | 円安により、日本旅行が安くなった |
ビザ規制緩和 | ビザ取得の基準や手続きが緩くなって日本に入国しやすくなった |
海外旅行者数増加 | アジアを中心に富の増加もあり、海外に旅行する人口が増えている |
地政学的メリット | 日本は特に富の増加が著しいアジア諸国から比較的近い |
国によるPR | 政府主導の2003年からのビジットジャパンキャンペーンが実を結ぶ |
免税対象の拡大 | 免税対象品と導入店舗の拡大によりお得にショッピングが楽しめる |
上記以外にも、和食の世界遺産登録や、日本アニメ等を筆頭にした根強い日本文化人気なども勿論理由としてあげられます。実に様々な要因が絡み合い、インバウンドはかつてない程に盛り上がっております。
何故期待されているのか?
盛り上がっているインバウンド。盛り上がると同時に、期待されています。何故でしょうか?
一つには、内需の減退があります。日本の人口は高齢化と人口減少が同時に進行しています。結果として、国内での経済活動はどうしても下火にならざるをえません。これはある意味どうしようもない部分であります。その際に、インバウンドで外国から需要を取ってこようと期待している業界がたくさんあります。これが、インバウンドが期待されている一つの理由です。
更に、インバウンドツーリズム、海外からのお客様は時期をずらしてやってくる、ということもあります。つまり、繁忙期の合間をうめるように訪問してくれる、ということになります。日本では一斉に休みを取ります。故に、人が移動する時と移動しない時の差が激しくなります。これにより、宿泊施設は繁忙期と非繁忙期で差が激しく、収益がぶれたり人員配置のむずかしさがあります。又、非繁忙期には価格調整する必要があります。 しかし海外の方は国によって休暇の時期が違いますし、休暇をまとめてとって日本にやってきます。これにより、内需だけでは非繁忙期になる時期や平日にも海外の方が隙間の需要を埋めてくれる、ということになります。
勿論、インバウンド市場にはメリットばかりではありません。文化の違いによるマナーの悪化や、都市圏を中心とした宿泊施設不足などの課題もあります。これらに対しては業界を超えた議論を継続し、ひとつずつ地道に改善していく必要があります。
まとめ
ここまでみていただいた通り、インバウンド市場、つまり訪日観光旅行市場は円安や規制緩和などの追い風もあり、かつてないほどに盛り上がっております。影響をうける業界は非常に広く、インバウンド需要に対応する・しないも含めて、対応の是非とその中身が問われております。 「インバウンドは一時的なブーム」という声も聞かれます。確かに為替動向は先が読めませんし、和食世界遺産登録やビザ規制緩和によって一時的に人気が沸騰している点もあるでしょう。
しかし一方で、日本旅行で感じる「満足度」は非常に高いというデータもあります。これはリピート訪問にも繋がります。これまで日本のインバウンドランキングが低かったのは、「ただ単に世界に認知されていなかっただけ」、だとすると、今後もリピート訪問を筆頭に日本観光は増え続けていくかもしれません。
おまけ
一つおまけとして、言葉の整理をしておきます。マスコミなどで「インバウンドが●●●●万人を突破!」とよく報道されますが、実際にどの統計なのでしょうか。「ん?日本にやってくる外国人観光客のことだろ?」と思われる方が多いのですが、ものすごく厳密に言うと、「目的を問わず日本に入国した外国人」のことなんですね。つまり、観光目的以外の入国者も含まれます。インバウンド統計データは日本政府観光局(JNTO)さんが公表してくれている「訪日外客数」をさすのですが、対象は以下の全てです。
- ツアー観光客
- 個人観光客
- ビジネス出張
- 駐在員
- 駐在員の家族
- 留学生
- 再入国者
これらは全て、インバウンド数に含まれます。ちなみに、実はこの「どこまでをインバウンドに含めるか」というのは各国の基準によるものなので、各国の統計だけを単純に比較することはできないのです。もっといいますと、実は「飛行機や船舶の乗組員が統計値に含まれるか否か」については一部で誤解があるようなのですが、弊社調べでは含まれておりません。この点は一部の民間企業様の記事で「2014年から含まれるようになった」との記載がありましたので政府観光局(JNTO)に直接問合せたところ、「日本ではこれまでもこれからも含みません」とのことでご回答を頂きました。公表元に直接確認したので間違いないでしょう。尚、日本での外国人永住者も含まれない点も理解しておいてください。
まとめると、マスコミなどで報道されている「インバウンド」という言葉は、目的がどうあれ日本に入国してくる外国籍の方々の移動 (永住者や乗組員は除く)、のことを総称しているということになります。観光庁やJNTOが出す統計においては、これらすべての数字を足し合わせたものが、いわゆるインバウンド関連の統計値となります。